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自分が40代になったことが信じられない40代のために!

【書評】QED 式の密室 ★☆☆☆☆


 

 なんと言うか、あまりにも偏っている。
まず菅原道真と通りゃんせについてはひどい

三芳野神社はそもそも菅原道真を祭る「お城の天神さま」であり地元でそう呼ばれている。隠れてお参りするもなにもない。お札をおさめにだろうが何だろうが、そもそも天神さまなのである。

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・菅原氏の祖である土師氏は「連(むらじ)」であり、藤原氏の祖である中臣氏も同じく「連」である。連はヤマト政権時代から続く中央豪族であって神々の子孫であり、決して出自が卑しいわけではない。

 

・土師氏の「土」について「いい意味ではなかったようだ」と言っているが、「土」には蔑む意味合いはない。名前の由来は土を使う古墳造営担当職である「土師職(はじつかさ)」という職に就いていたためであり、「土」を扱う「師」であってその読み方以外になんの不思議もない。また古墳造営担当であるから埴輪に関わることも不自然ではない。

 

野見宿祢の「野見」も、古墳造営の場所探しのために「野を見る」と言う説がある。また当然この字にも蔑む意味合いはない。

 

・菅原氏は決して卑しい出自ではないが儒家であったため家格は低かった。道真の時代では藤原氏(特に北家)が他の氏族を排斥する過程にあり、藤原氏専横に抵抗している立場である。藤原氏は866年の応天門の変を経て人臣初の摂政、887年関白となる。当時道真の娘婿が皇位につく可能性もあり、藤原氏独占に邪魔だったため道真排除となった。

 

・「27年もたってから」道真の祟りとするのはなぜかと言っているが、903年に道真が死んだあと、908年藤原菅根病死、909年藤原時平病死、913年源光溺死、923年保明親王東宮。時平の甥)21歳で即位前に死去。925年慶頼王保明親王の第1皇子。時平の孫)が5歳で死去。そして930年が清涼殿落雷である。27年間何もなかったわけではなく、数年ごとに昌泰の変で道真を陥れたとされる関係者が没している。当時の人間が「祟り」と恐れるのも無理はないし、それだからこそ天神さまとして神様に祀り上げ祟りを収めてもらおうとした。

 

虐げられた人がいることを強調するために、菅原氏を「出自が卑しい」としているが前述のように明らかに違う。
また「天神さま」となって以降はそのお参りを欠かさないことこそが祟りを収める正しい手段である。日本人なら無意識に納得できると思うが、お祀りしないのが一番悪い。再び天災が起きる原因となる。ご先祖様でさえ「お墓参りがない」と言って怒るのだから、神様にお参りできないようにしてどうするのか。隠れないとお参りできないなど神様を怒らせるばかりじゃないか。

 

「歴史の事実を知れば」など、奈々ちゃんに説教しているが、この作者こそ歴史の事実を隠し、自分の都合のいいように解釈している。

 

今までこのシリーズは何作か読んでいて、その都度突っ込みを入れているが、今回のは笑えない。笑えない一番の理由は自分の主義主張のために事実を覆い隠しているからである。事実を列挙したうえで「こう考えることもできる」ならいい。しかし事実を覆い隠し捻じ曲げたうえで「真実はこれだ」はあまりにも読者に対して不誠実でありばかにしている。

 

また式神の正体についてだが、三位以上の人達は家でだれに着替や食事や巻き割りや牛車ひきをやらせていたのだろうか。五位以上の人にでもやらせていた?そんなばかな。かならず位階のない人間を使っており、その点で安倍晴明と同じである。
貴族以外の人間を人間とみなさないことはあっても、そこに「いない」とはならない。

 

今まで読んだQEDシリーズで一番の低評価である。

 

この本や他のQEDシリーズを読んで歴史の真実を知った気になるのもわかる。でも「目からうろこ。気づいてみたら当然のこと」などと言っている人は、まずこのシリーズで上げられている「事実」とやらを疑った方がいい。シリーズのほかの作品でもほかの方がレビューされているが、資料に間違いが多い。さらに恣意的に事実を隠したりもする。

 

書かれていることをそのまま信じるのであれば、中高生の時に歴史で学んだことを信じ込むことと何が違うのか。別のうろこに付け替えただけじゃないか。

 

ただ読む本が変わっただけで、教えられたままを信じていることに変わりはない。

 

この本をきっかけに歴史や民俗学に興味を持つのであればいいが、この本に書かれていることがすべて信じてはいけない。間違いもごまかしも多い。確かにハッとする推論もあるが、その前提となる「事実」とやらが信用できない時がある。

 

自分で調べもせずに小説を信用するくらいなら、歴史の教科書を信用したほうがいい。少なくとも教科書は何人もの専門家が検証している。