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自分が40代になったことが信じられない40代のために!

【書評】塀の中の美容室 ★★★☆☆素材がそのままで、混ざることなく味がばらばらの鍋物


 

6本の短編連作。そのうち最後の1本だけは塀の中である必然性を感じるものの、他のものは塀の中の美容室である必然性を感じなかった。(あえて言うなら中学生のやつや、美容師の先生の話も多少は・・)

 

結局ほかの5本はお客の話であって、この舞台が田舎の小さな美容室であっても問題ないと思う。
他の5本もで主人公(といえるだろう)である塀の中の美容師がもっと存在感があればよかった。

 

団子頭にマスクをしていてほとんどしゃべらない。もちろんそれは実際に取材する中でそうなっていたのだろうとは思う。でもあまりにも読者の意識が美容師にむいていない。
お客の話であっても、「この美容師さんはいったい何が原因で罪を犯し、なぜ一生懸命美容師になろうとしているのだろう」と読者に思わせる部分をもっと書くべきだったと思う。

 

正直に言って、看守や所長のほうが気になる存在だった。

 

また、最後に美容師が髪を切ってもいいという話になるが、1本目の「恋愛していた間に伸びた髪の毛を切る」というストーリーにかぶっている。わざとこういったつくりにしているのだと思うが、同じネタの使いまわしに思えた。

 

設定は面白いが、設定を使い切れていない印象。

 

人が髪を切る、という行為にいろんな人生があることは理解するしその部分はかけていたように思う。でもそれが塀の中である必然性については薄かった。

 

昔の宮部みゆきもこういった短編連作をよく書いていたと思うが、宮部みゆきの場合各短編が最後に一つにまとまり、それぞれの短編に意味があってエンディングを迎えた時点でそれまでの短編がさらに深みを増していたと思う。

 

 

 

この「塀の中の美容室」については残念ながら素材がそのままで、混ざることなく味がばらばらの鍋物のようだった。

部分部分に印象的なところもあるので、まったく悪いというわけではないが、再度読み直したいと思わせる部分はなかった。