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【ミステリー】貴族探偵 麻耶雄嵩(マヤユタカ) ★★☆☆☆ ネタバレ TVドラマ版の方がよくできてる


月9ドラマ30周年記念番組として、豪華キャスト出演で作成された「貴族探偵」の原作

 

www.fujitv.co.jp

 

さんざんあちこちで不評だし、相葉くんの演技がすごいことになってますが、実は毎回欠かさず録画してみている。

相葉くんの演技は置いておいて、さすが松重豊とか生瀬勝久とか仲間由紀恵とかいい俳優さんが多いし、木南晴夏大好きだし、実はTVドラマとしてかなり立派に作りこんである。

で、その原作を読んでみた。

 

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

 

 信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か? 捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。斬新かつ精緻なトリックと強烈なキャラクターが融合した、かつてないディテクティブ・ミステリ、ここに誕生! 傑作5編を収録。

 

原作との比較は今から書くけど、率直に言って

「推理しない探偵、って設定以外は目立っていいところのない2流ミステリーをよくぞここまでエンターテイメントに仕上げたな」

 

です。TVドラマ版は相葉くんの演技を差し引いても60~70点くらいと思うんですが、原作はよくて50点くらいでしょうか。それはミステリーとしての質とか小説としての出来とか文章とかで。

 

ちなみに第2作の「貴族探偵対女探偵」は未読。買ったけどまだ読んでいない

 

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

 

 新米探偵・愛香は、親友の別荘で発生した殺人事件の現場で「貴族探偵」と遭遇。地道に捜査をする愛香などどこ吹く風で、貴族探偵は執事やメイドら使用人たちに推理を披露させる。愛香は探偵としての誇りをかけて、全てにおいて型破りの貴族探偵に果敢に挑む! 事件を解決できるのは、果たしてどちらか。精緻なトリックとどんでん返しに満ちた5編を収録したディテクティブ・ミステリの傑作。

 

まず、原作とTVドラマと比較して、原作の何が一番ダメかというと

3人の使用人がまったく同じ役割

TVと同じく執事の山本、運転手の佐藤、メイドの田中といますが

  • 3人が3人とも控えめで個性がない
  • 3人が3人とも警察以上に捜査・推理能力が優秀
  • 貴族だから執事と運転手とメイドが必要なだけで、別に3人に分ける必要がない。それ以外に3人いる必然性がない

バビル2世で言うところの3つのしもべが全員ロデム

それがTVドラマ版では、総合能力の山本、体力と調査担当の佐藤、情報整理の田中となっており、3人にそれぞれ個性というか役割があるし、再現映像を作るにも3人いる必然性がある。

 

原作では貴族のくせに一目見て常磐洋服店のスーツとわかる服を着ている。

貴族の話を書いていますが、作者は庶民なんでしょうねえ・・・。

  1. 女性はともかく、男性は一目見てどこのブランドか分かるようなものは下品
  2. ましてやスーツに至っては、(フル)オーダーが当たり前なので絶対にどこのものか判断できない。外見からわかるのは生地だとか縫製の具合、体にフィットしているかどうか
  3. TVドラマ版はおおげさな「どこの国の貴族だよ」って服を着てますが、まあTV的にはこれでありなのかな

 

各話のネタバレはあらためて別に書きますが一番ひどかったのは「こうもり」

 

女子大生2人組(絵美、紀子)が卒業旅行に 地方の呼吸旅館に泊まります。そこには作家の大杉とその妻(真知子)、妻の妹(佐和子)とその夫、友人の堂島尚樹、佐和子の元不倫相手の松野なども泊まっていましたが、旅館から少し離れた祭りの場所で佐和子が殺されてしまい、貴族探偵がそれを解決する話。

 

ここからネタバレ

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 犯人は大杉とその妻真知子

トリックは、大杉のそっくりさんである貴生川敦仁をつかってアリバイを確保し、その間に大杉が佐和子を殺すと言ったもの。

 

問題は貴生川敦仁の登場シーン

前日に大杉夫妻他とは親しくなっていた2人ですが、その次の日の昼、紀子が昼食を取りに行くと絵美が貴生川敦仁と親しく食事をしています。ここでいきなり固有名詞が出てくるため、読者は

「誰だ?」

と思わされますが、前話で貴族探偵が着ていた常磐洋服店のジャケットを着ており、また「恋人が遅れてくる」といった情報があったことからこれは「絵美の恋人である貴生川敦仁(貴族探偵)」だと思わされます。文中で「貴生川敦仁」と呼びかけるシーンはありません。

 

実は貴生川敦仁は大杉のそっくりさんで、紀子は「絵美と大杉が食事をしている」として捉えているにも関わらず、地の文では「絵美と貴生川敦仁が食事をしている」シーンとなっている。

 

その次の日も大杉夫妻と絵美、紀子の4人で昼食をとるのですが、会話文では「大杉先生」と呼びかけ、地の文では「貴生川敦仁」となっているため、その場に5人いるように読者に思わせています。このシーンは叙述トリックといえないこともないんですが、直前の貴生川敦仁登場シーンがあったため、よく読まないと5人いるように思えます。この間に本物の大杉が佐和子を殺しに行っているわけですが。

 これはルール違反というよりマナー違反かな。

 

この「こうもり」が読者には評価が高いそうですが、個人的に悪質としか思えませんでしたねえ

固有名詞を使わずに読者に5人いると思わせてこその叙述トリックでしょ。